「はずれくじ」7DⅢ

プゥペドゥシール→シーカースタイル♂ 桃髪

海星雄征→2020-Ⅱ アイドルスタイル
間宮緋色→バトラースタイル♀

UE77年。そう聞いた時はじめ僕はそれの意味することを正しく理解していなかった。
ただ僕は、そこがとうきょうと呼ばれる場所であること。それだけにただ希望を抱いていたのだ。

80年の意味を知るのは、思ったより早い。それは平均的な成人男性が人生を終えるのに十分すぎるほど十分で、つまりは2021年を生きた人には会えないという意味だ。
僕の引いた一生に一度のくじ引きは、はずれだったのだ。

「どうして違う時代にいけないんですか!たった、たった80年でしょう!」
ジュリエッタの襟首を掴み、僕は叫んだ。周囲の研究員が慄き、あるいは憐れみ、遠巻きに僕らを見つめている。
「物分かりの悪いガキだな。今ここに居るだけでも奇跡も奇跡っていうのによ」

「近い時代ほど影響は大きい。歴史が変わってこの転移ポータルすら開発が行われなかったらどうするんだ?この建物、いやこの時代すべての人間が消失するかもしれねえぜ」
「でも、現にアトランティスの歴史を変えたじゃないか!」
「もうちょっとお子様にわかるように言ってやるよ。あんたが会いたい理由そのものの原因が作られなくなるかもしれねえって言ってるんだよ。あんたの消失といっしょにな」
それ以上ナガミミに言葉を吐き出せなかった。理解、我儘、そういうものがないまぜになって何をぶつければいいのかもうわからなくなったからだ。
「……アナタの探している人。家族は居なかったようだけど、身元を引き取った人はきちんと残っているわ。それで満足できるかはわからないけど……少しでも、慰めになれば」
データが手元に転送された。それは、かつて竜災害で彼と戦った者の子孫であるようだった。

慣れない東京の中を一人で歩くのは難しいだろうと、こちらの時代出身の者が同伴した。間宮緋色という名の彼女も、また海星雄征を知る一人だった。
「わたくしがあの人にお会いした時は、もうとても高齢になっていました。わたくしはまだ小さくて、遂ぞあの人自身のことは聞いたことがなかったのです」
給仕の服を纏った彼女は、遠くを見つめながら都市を歩く。見つめられる遠くがあるだけ羨ましかった。
やがて、目的の住宅にたどり着いた。桐原と表札にあるその家のボタンを押すと、ベルの音と共に女性が出てきた。
「お話は伺っています。どうぞ」
色素の薄い女性は、草を編んだカーペットの部屋に案内した。紙の貼られた引き戸を開けると、一際高い棚に布に包まれた箱があった。
緋色が息を呑むのがわかる。それが彼の死を示すのだと、幾ら時代が違えど理解する。
「祖父はずっと彼のことを案じていました。寡黙な人でしたが、何か出来ることはないかとずっと零していたようです」
同じ棚には、古びた腕章や脇差が飾られている。赤い腕章に刻まれた竜を狩るものの証。
「本当はどこかに納めてあげたいと思っていますが、彼には身寄りがなく……この家の墓に葬るのも、海星さんは拒んでいました」
緋色はずっと拳を握りしめていた。手の届かなかった、時の流れ。

去り際に、女性から一つの箱を受け取った。
大きな荷物なので、ご迷惑でなければ、と。
確かに大きな厚紙の箱の中には……描かれたキャンバスが何枚も入っていた。
海星さんの唯一の持ち物です。そう俯いて女性は箱を抱いていた。
緋色と視線を交わす。答えは決まっていた。

80年に余る時間が、麻布の上に積み重なっていた。
東京の街は、あなたにはどう見えていたのだろうか。
その街は、あなたにとって正解になれましたか。
あなたは、当たりを引き当てられましたか。
ずっとずっと、引き続けたくじはキャンバスの上に刻まれている。